大判例

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東京高等裁判所 昭和36年(ラ)79号 決定

記録添付の右抗告人提出の書面(第七六丁)につき検討するに、右書面には、抗告人と相手方間の訴訟事件を表示した上、「右事件は昭和三十五年七月十五日の云渡で被告会社の勝訴に至つた。それで原告(抗告人)は権留しこの不服審を静岡地方裁判所になさない。以上の点で当事者は同意した。」と記載され、抗告人の署名押印並びに相手方会社名の記載及び「磯谷合板株式会社印」なる会社印が押印されていることが認められる。

右文言のうち、「この不服審を静岡地方裁判所になさない」というのは、控訴をしないという趣旨であることは容易に理解し得るところである。次に「原告は権留し」との文言はその字義が必ずしも明らかであるとはいい難いけれども、右の「権留し」とは「権利を留保し」との趣旨を略記したとみる以外にはその意味を解し得ないので、全く意味不明の記載とみるよりもむしろ右のように解するのが妥当と考えられる。そしてこの点と前記静岡地方裁判所に云々の記載から理解される控訴しないという点を合わせて考えれば、抗告人の意思は控訴はしないけれども、その他の不服申立の権利はこれを留保するというにあると解されるのであつて、結局その趣旨は上告の権利は留保するというにあるとみるのが相当であり、特段の事情の認められない限り、相手方もその趣旨に了解して右書面を作成したものと認めるのが相当である。以上によれば右抗告人提出の書面はその記載内容において民事訴訟法第三百六十条の要求する書面に該当するとみて妨げないものと解すべきである。

もつとも右書面に(抗告人の署名押印に欠けるところはないが)相手方(被告)会社代表者の署名押印がなく直接に会社名を記載しかつ会社印が押捺されていること前記のとおりである。

しかして会社が訴訟当事者として民事訴訟法に定める書面を提出する場合には本来その代表権限ある者が署名押印すべきものと解されるのであつて、民事訴訟法第三百六十三条第二項所定の書面についても、もとより右のことは妥当するのであるが、これに合致しない書面を常に不適法としてその効力を否定すべきものとは考えられない。民事訴訟法第三百六十条第二項の規定も、必ずしも厳格な形式の書面を要求するものではなく、右の場合についていえば、会社の合意を示すに足る記載があれば足り効力要件としてそれ以上の形式を求めるものではないと解するのが相当である。

(梶村 室伏 安岡)

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